初めて会社を買う会社が最初に決めること 買収の目的の言語化から、候補企業の絞込みまでの手順

この記事の位置付け

企業の買収は、同じ業種の会社を取り込んで規模を広げる場面と、異なる業種の会社を取り込んで新たな柱を作る場面とに分かれますので、本ページでは、いずれの場合にも着手の前に決めておくべき事項を、次のとおり切り分けて整理いたします。

▶ M&Aのプロセスの流れ

▶ M&A企業買収

▶ M&Aアプローチ代行サービス

▶ M&Aデュー・ディリジェンス・サービス

▶ 譲渡の後の統合 売主が引き継ぐ義務と、引継ぎの期間の定め方

会社を買うという判断は、設備を買う判断とも、人を採用する判断とも異なります。買うのは資産の集合ではなく、現に動いている組織であり、取引先との関係であり、そこで働く人々の日々の判断の積み重ねだからです。したがって、候補企業の資料を集める前に、自社の側で決めておくべき事項があります。

本ページでは、買収を考え始めた事業会社の経営者及び担当者の方に向けて、目的の定義、投資可能額の設定、対象とする企業像の数値化、候補の探索の経路、及び買収後の経営体制について、決める順序に沿って整理いたします。契約書の作成及び審査、許認可の承継の可否の判断、法務の調査その他の法律事務は、弁護士でなければ行うことができない業務ですので、当法人では取り扱いません。

買収を考え始めた段階で、最初に言葉にすべきこと

買収の相談を受けます際、最も多く伺うのは「良い案件があれば見たい」というご希望です。この段階で候補企業の資料を見始めますと、判断の物差しが定まらないまま、資料の見栄えに引かれることになります。案件の情報は、目的が定まっている買主にとっては選別の材料となりますが、目的が定まっていない買主にとっては迷いの材料となります。

先に言葉にすべきは、次の4点です。第1に、買収により何を得ようとしているのか。第2に、いくらまで出せるのか。第3に、どの範囲の会社を対象とするのか。第4に、買った後、誰がその会社を経営するのか。この4点が言葉になっていれば、案件の情報は選別できます。逆に、この4点が定まらないまま進めますと、後記の「後悔しやすい場面」に至ります。

買収の目的を「売上の拡大」以外の言葉で定義する

「売上を伸ばしたい」という表現は、目的の説明としては足りません。売上の拡大は結果であり、何を取り込むことによってそれが実現するのかを述べていないからです。目的は、次の5つのいずれか、又はその組合せとして述べることができます。

商圏の獲得

自社が営業所を持たない地域において、既に顧客と関係を築いている会社を取り込む場合です。自社で営業所を新設し、人を採用し、顧客を開拓した場合に要する期間と費用を試算いたしますと、買収の対価と比較できます。試算の際には、新設の場合に黒字化するまでの累積の赤字も費用に加えます。

人材の獲得

特定の技能を持つ従業員を、組織ごと取り込む場合です。この場合、買収の価値の大半は人に帰属しますので、対象会社の従業員が譲渡の後も残るかどうかが決定的な意味を持ちます。従業員の平均勤続年数、直近3年間の離職の状況、及び中核となる従業員の年齢の分布を、必ず確かめます。

技術・顧客基盤の獲得

自社が保有しない技術、又は自社が接触できない顧客の名簿を取り込む場合です。技術については、その技術が誰に属しているか、すなわち法人に帰属するのか、特定の個人の経験に依存するのかを見極めます。顧客の基盤については、上位5社への売上の集中の割合を確かめます。上位1社が売上の30%を超える場合には、その1社との関係が譲渡により変化する危険を織り込みます。

仕入・供給の安定

仕入先又は外注先を取り込み、供給を安定させる場合です。この場合、取り込んだ後に外部の顧客との取引が減少することがあります。対象会社の売上のうち自社向けの割合と外部向けの割合を分けて把握し、外部向けの売上が減少した場合の採算を試算いたします。

時間の購入

自社で一から立ち上げた場合に要する年数を、対価により短縮する場合です。許認可を要する事業、又は実績の年数が入札の要件となる事業では、この意味が大きくなります。もっとも、許認可が譲渡により当然に承継されるか否かは事業の種類により異なり、法的な判断を含みますので、当法人では判断いたしません。弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

同業を買う場合と異業種を買う場合の相違

観点 同業を買う場合 異業種を買う場合
価値の見立て 自社の経験により精度が高い 外部の助言に依存する度合いが高い
統合の難度 業務の進め方が近く、比較的低い 評価の基準も慣行も異なり、高い
従業員の反応 競合であった相手先として警戒が生じやすい 相互に干渉が少なく、当初は穏やか
取引先の反応 取引先が重複し、条件の見直しを求められることがある 重複が少なく、影響は限定的
経営を担う人 自社から派遣しやすい 自社に適任者がいないことが多い
成果が出るまでの期間 短い 長い

異業種の買収は、自社の既存の事業が成熟した場合に検討されることが多いものです。もっとも、経営を担える人が自社にいない場合には、対象会社の既存の経営陣に依存することになります。その場合、譲渡の後の一定の期間、前の経営者に残っていただく取決めが不可欠です。取決めの期間、役職、報酬及び権限の範囲を、条件の提示の段階で明示いたします。

投資可能額の考え方

自己資金と借入れの配分

買収の資金は、手元の現預金と金融機関からの借入れとにより賄うことが一般的です。手元の現預金の全額を投じますと、買収の後に生じる想定外の支出に対応できません。運転資金の3箇月分は必ず残す、という基準を先に定めておくことをお勧めいたします。

借入れによる場合、返済の原資は、対象会社が生み出す利益と、自社の既存の事業が生み出す利益との合計です。対象会社の利益のみで返済できる計画を組みますと、対象会社の業績が計画を下回った際に、自社の資金繰りに影響が及びます。

回収の期間の目安

中小企業の買収では、対価を対象会社の利払前税引前償却前利益の3倍から5倍程度とする例が多く見られます。この倍率は相場として保証されたものではなく、業種、成長の度合い、経営者への依存の度合いにより大きく動きます。当法人は、特定の倍率を適正な相場として申し上げることはいたしません。

倍率よりも意味があるのは、回収の期間です。対価を、対象会社が生み出す年間の現金の増加額で除しますと、単純な回収の年数が求められます。この年数が自社の借入れの返済の期間を超える場合には、返済の原資が不足することを意味します。

のれんの負担

対価が対象会社の純資産を上回る場合、その差額はのれんとして処理されます。中小企業の会計においては、のれんを一定の年数で費用として配分いたしますので、買収の後の損益計算書には毎期の負担が生じます。対価が純資産を2億円上回り、10年で配分いたしますと、毎期2,000万円の費用が加わります。対象会社の利益がこの負担を吸収できるかを、条件の提示の前に試算いたします。

数値による例示 同じ会社に3つの対価を当てはめる

売上高5億円、利払前税引前償却前利益6,000万円、純資産1億5,000万円、有利子負債1億円の会社を想定いたします。対価を3億円、4億円、5億円とした場合の負担を並べます。減価償却費を1,000万円、法人税等の負担を35%、のれんの配分の期間を10年といたします。

項目 対価3億円 対価4億円 対価5億円
のれん(対価と純資産の差額) 1億5,000万円 2億5,000万円 3億5,000万円
のれんの毎期の負担 1,500万円 2,500万円 3,500万円
負担後の利益(概算) 3,500万円 2,500万円 1,500万円
年間の現金の増加額(概算) 3,900万円 3,250万円 2,600万円
単純な回収の年数 7.7年 12.3年 19.2年
借入れ2億円の返済(10年)との関係 対応可能 厳しい 対応困難

対価が5億円に達しますと、単純な回収の年数は19年を超え、10年での返済とは整合いたしません。対価の上限は、希望ではなく、この計算により定まります。なお本例は考え方を示すための試算であり、実際の数値は業種、税務上の取扱い及び資金の調達の条件により異なります。

対象とする企業像を数値で決める

売上・利益の規模

下限と上限の双方を決めます。下限は、買収と統合に要する手間が見合う水準です。上限は、自社の資金力と経営の管理の及ぶ範囲です。売上高で申しますと、自社の売上高の3割を超える規模の会社を初めての買収の対象とすることは、統合の負担の面で慎重な検討を要します。

地域

経営者が月に何回訪問できるかにより、対象とする地域は自ずと定まります。譲渡の直後の3箇月間は、想定以上に往復が必要となります。片道4時間を超える地域を対象とする場合には、現地に常駐する責任者を先に決めておく必要があります。

従業員数

従業員数は、統合に要する労力に直結します。10名以下の会社では、経営者個人への依存の度合いが高く、経営者が退任した後の体制が課題となります。50名を超えますと、就業規則、賃金の体系、評価の仕組みの相違が表面化いたします。

取引先の構成

上位5社への売上の集中の割合、及び自社の既存の取引先との重複の有無を、対象とする企業像の要件に加えます。重複がある場合、譲渡の後に取引先から条件の見直しを求められることがあります。

候補企業をどこから探すか

支援会社の紹介

M&Aの支援を行う会社に対し、対象とする企業像を数値で伝え、該当する案件の紹介を受ける経路です。企業像が数値で伝わっていない場合には、対象外の案件が多く送られてまいります。紹介を受ける際には、秘密保持契約の締結と、社内で情報を扱う者の限定が前提となります。

金融機関

取引のある金融機関に対し、買収の意向と対象とする企業像を伝える経路です。金融機関は、取引先の後継者の問題を把握していることが多く、また買収の資金の相談を同時に進められる利点があります。

取引先

仕入先、外注先、同業の組合の関係先から、後継者の不在を理由とする譲渡の意向が寄せられることがあります。関係が既にありますので、事業の内容の把握が容易です。他方、関係が近いために、条件の交渉が情に流れやすい点に注意を要します。

公的なプラットフォーム

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する事業承継・引継ぎ支援センター、及び同機構が運営する案件情報の提供の仕組みがあります。小規模な案件が多く、初めての買収の対象を探す経路として活用できます。

小規模な会社を買う場合に特に注意する事項

従業員が10名以下、売上高が3億円以下といった規模の会社では、次の5点が特に問題となります。第1に、経営者個人が営業の中心であり、退任により売上が減少する危険です。第2に、経営者個人と会社との間の貸借、すなわち役員貸付金及び役員借入金の存在です。第3に、事業に用いている不動産又は車両が経営者個人の名義であることです。第4に、決算書に計上されていない債務、とりわけ未払の残業代及び社会保険料の未加入です。第5に、契約書が作成されていない取引の存在です。

これらのうち、第4及び第5の法的な評価、並びに契約による手当ては、弁護士でなければ行うことができない業務です。当法人は、資料の収集と論点の一覧化までをご支援し、法的な評価は弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

買収後に誰が経営するのかを、先に決める

買収の検討において最も後回しにされ、かつ最も成果を左右するのが、この点です。選択肢は3つです。第1に、自社から役員又は幹部を派遣する方法。第2に、対象会社の既存の幹部を昇格させる方法。第3に、前の経営者に一定の期間残っていただく方法です。

方法 利点 あらかじめ決めておく事項
自社から派遣する 自社の方針が伝わりやすい 派遣する者の氏名、着任の時期、既存の担当業務の引継ぎ
既存の幹部を昇格させる 対象会社の従業員の動揺が少ない 昇格させる者の意思の確認の時期と方法、処遇の変更
前の経営者に残っていただく 取引先との関係が維持される 残る期間、役職、権限の範囲、報酬、退任の時期

第3の方法を採る場合、残っていただく期間の定めは、条件の提示の段階で示します。基本合意の後に持ち出しますと、条件の再交渉と受け取られます。なお、その定めを契約の条項としてどのように書くかは法律事務に当たりますので、弁護士法人M&A総合法律事務所が承ります。

検討の順序と、各段階で要する期間

段階 行うこと 期間の目安
第1段階 目的の定義、投資可能額の設定、企業像の数値化、経営体制の決定 2週間から1箇月
第2段階 探索の経路への依頼、秘密保持契約の締結、案件情報の受領 1箇月から3箇月
第3段階 対象会社の概要の検討、経営者との面談、意向表明書の提出 1箇月から2箇月
第4段階 基本合意の締結、詳細な調査の実施 1箇月から2箇月
第5段階 最終契約の締結、決済、引渡し 1箇月
第6段階 統合の実行、100日間の計画の遂行 3箇月から1年

第1段階を省略しますと、第3段階で判断ができず、往復が増えます。第1段階に要する2週間から1箇月は、全体の期間を短縮するための投資です。

相談すべき時期

最も適する時期は、案件の情報を受け取る前、すなわち第1段階です。目的、投資可能額、企業像、経営体制の4点を整理してから探索を始めますと、届く案件の質が変わります。次に適する時期は、意向表明書を提出する前です。提出の後は、金額と主要な条件が相手方の期待として固まります。

既に基本合意を締結した段階であっても、統合の計画の作成は残っておりますので、ご相談の意義は失われません。

相談の前に用意する資料

次の資料をお手元にお集めください。第1に、自社の直近3期分の決算書です。第2に、金融機関からの借入れの一覧と、追加の借入れの余力が分かる資料です。第3に、自社の組織図と、派遣可能な人材の一覧です。第4に、買収により得ようとするものを書き出した覚書です。第5に、既に案件の情報を受け取っている場合には、その概要書です。第6に、自社の主要な取引先の一覧と、上位5社への売上の集中の割合です。

候補企業へ打診する前に確認する事項

次の10項目を、社内で書面により確認いたします。第1に、買収の目的を5つの類型のいずれで説明できるか。第2に、投資可能額の上限はいくらか。第3に、その上限のうち自己資金と借入れの配分はどうか。第4に、回収の年数の上限は何年か。第5に、のれんの毎期の負担を吸収できるか。第6に、対象とする売上・利益の規模の下限と上限。第7に、対象とする地域の範囲。第8に、従業員数の上限。第9に、買収後に経営を担う者の氏名。第10に、社内で情報を扱う者の範囲と、その者に対する秘密保持の徹底の方法です。

第9が空欄のまま打診を始めることは、お勧めいたしません。相手方の経営者は、譲渡の後に誰が会社を率いるのかを必ず尋ねます。この問いに答えられない買主は、選ばれません。

当法人及び弁護士法人M&A総合法律事務所の関与

当法人は、買収の目的の整理、投資可能額の試算、対象とする企業像の数値化、候補の探索の経路への依頼、対象会社の資料の整理、及び統合の計画の作成につきまして、M&Aの助言としてご支援いたします。

他方、株式譲渡契約書その他の契約書の作成及び審査、表明保証及び補償の条項の設計、許認可の承継の可否の法的な判断、法務の調査、並びに条件の交渉の代理は、弁護士でなければ行うことができない業務に当たります。これらにつきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

よくあるご質問

良い案件があれば見たいのですが、先に目的を決める必要がありますか。
目的が定まっていない状態で案件をご覧になりますと、資料の見栄えにより判断が左右されます。目的、投資可能額、企業像、経営体制の4点を先に決めますと、案件の選別が可能となり、結果として検討に要する期間が短くなります。

買収の対価は、利益の何倍が適正ですか。
適正な倍率を一律に申し上げることはできません。業種、成長の度合い、経営者への依存の度合いにより大きく異なります。倍率よりも、対価を年間の現金の増加額で除した回収の年数が、自社の借入れの返済の期間に収まるかをご確認ください。

初めての買収では、同業と異業種のどちらが適していますか。
一般には、価値の見立てと統合の難度の点から同業のほうが取り組みやすいと申せます。もっとも、既存の事業が成熟し、経営を担える人材が自社にいる場合には、異業種も選択肢となります。

対象会社に未払の残業代がありそうです。どう扱えばよいですか。
存否と金額の法的な評価、及び契約による手当ては、弁護士でなければ行うことができない業務です。当法人は資料の収集と論点の一覧化までをご支援し、評価と手当ては弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

買収の資金は、どの程度まで借入れによってよいのですか。
返済の原資が対象会社の利益のみとなる計画は、業績が計画を下回った際に自社の資金繰りへ影響が及びます。自社の既存の事業の利益と合算して返済できる範囲にとどめ、運転資金の3箇月分は手元に残すことをお勧めいたします。

まとめ

買収の検討は、候補企業を探すことから始まるのではなく、自社の側で4点を言葉にすることから始まります。すなわち、買収により何を得るのか、いくらまで出せるのか、どの範囲の会社を対象とするのか、買った後に誰が経営するのかの4点です。

目的は「売上の拡大」ではなく、商圏、人材、技術及び顧客基盤、仕入及び供給の安定、時間の購入という5つの類型のいずれかとして述べます。投資可能額は、自己資金と借入れの配分、回収の年数、のれんの毎期の負担の3点から定めます。企業像は、規模、地域、従業員数、取引先の構成という数値により定めます。

そして、買収後に誰が経営するのかを、打診の前に決めます。この点に答えられる買主が、相手方の経営者から選ばれます。当法人は、この第1段階の整理から統合の計画の作成まで、資料の整理と進め方のご支援を行っております。

当法人はM&Aの仲介及び助言を行う一般社団法人です。訴訟、交渉の代理、法律事務の取扱いなど、弁護士でなければ行うことができない業務は取り扱いません。これらに当たる部分は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

企業の買収をご検討の皆様に向けて、当法人の取扱内容、進め方及び費用の考え方を次のご案内に整理しております。

なお、株式譲渡契約書の作成及び審査、表明保証及び補償の条項の設計、許認可の承継の可否の判断、法務の調査その他の法律事務につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所において承っております。