親族への承継、従業員への承継、第三者への譲渡、廃業 4つの選択肢を同じ物差しで比べる

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会社の承継は、後継者を親族又は社内に求める場面と、社外の第三者に求める場面とに分かれますので、本ページでは、この2つに廃業を加えた4つの道筋を、同じ物差しにより次のとおり切り分けて比較いたします。

▶ 中小企業経営者にM&Aでの事業承継をお勧めする理由とは?

▶ 会社の売却の準備 着手の前に整えておく資料と、社内で先に確認しておく事項

▶ 経営者保証の解除 譲渡に際して個人保証を外すための手順と、外れない場合の対応

▶ 会社の売却価格はどのように決まるのか 企業価値の評価の方法と、実際の取引価格との相違

▶ 業種別M&Aのご案内

後継者の問題は、ある日突然に現れるものではありません。多くの場合、10年ほど前から気にはなっていたものの、目の前の仕事に追われて先送りされ、体調の変化や取引先の代替わりをきっかけに、急に決断を迫られる形で現れます。そして、急いで決めた選択は、後から見て最も高くつくことが少なくありません。

本ページは、いずれかの道筋を勧めるものではありません。親族への承継、従業員への承継、第三者への譲渡、廃業という4つを、必要な資金、要する期間、雇用と取引先への影響、オーナーの手取り、後戻りの可否という同じ5つの物差しで並べ、ご自身で結論を出していただくために書いております。

4つの道筋があります

第1は、ご子息、ご息女その他の親族に株式と経営を引き継ぐ道筋です。第2は、役員又は従業員に引き継ぐ道筋です。第3は、社外の第三者へ株式を譲り渡す道筋です。第4は、事業を終え、会社を清算する道筋です。

この4つは排他的ではありません。親族に経営を任せながら株式の一部を第三者に持ってもらう形、従業員に一部の事業のみを引き継ぎ残りを譲渡する形もあります。もっとも、検討の出発点としては、まず4つを純粋な形で比較することをお勧めいたします。

同じ物差しで比べるための5つの観点

必要な資金

誰が、いくらを、どこから用意するのかという観点です。親族への承継では、株式の取得に伴う資金と税の負担が問題となります。従業員への承継では、従業員が株式を買う資金をどう調達するかが最大の障害となります。第三者への譲渡では、資金を用意するのは買主ですので、オーナーの側の負担はありません。廃業では、清算に要する費用をオーナーが負担いたします。

要する期間

後継者の育成を含めますと、親族への承継は5年から10年を要します。従業員への承継も、資金の手当てを含めますと3年から5年を要します。第三者への譲渡は、準備から決済まで6箇月から1年半が一般的です。廃業は、在庫の処分、従業員の再就職の支援、賃貸物件の原状回復を含めますと1年から2年を要します。

雇用と取引先への影響

親族への承継及び従業員への承継では、雇用は継続いたします。ただし、後継者の指導力によっては、幹部が離職することがあります。第三者への譲渡では、買主が雇用を継続することが通例ですが、その旨を条件として明示しておく必要があります。廃業では、雇用は失われ、取引先は代替の調達先を探すこととなります。

オーナーの手取り

親族への承継では、株式を無償又は低額で移転する場合、オーナーの手取りはありません。従業員への承継では、資金の制約から、第三者への譲渡に比べて低い金額となることが多いものです。第三者への譲渡では、競争により最も高い金額となる可能性があります。廃業では、資産の処分の代金から負債と清算の費用を差し引いた残額となり、事業の価値は手取りに反映されません。

後戻りの可否

親族への承継及び従業員への承継では、後継者が務まらないと判明した場合に、オーナーが再び経営に戻ることが事実上可能です。第三者への譲渡では、株式が移転した後は戻ることができません。廃業では、取引先も従業員も離れますので、事業の再開はきわめて困難です。

親族への承継

最も多く検討され、最も期間を要する道筋です。実現の可否は、後継者となる方の意思、経営の能力、及び他の親族の理解という3点に懸かります。

第1の意思につきましては、確かめたつもりで確かめていない例が多く見られます。「継いでくれるだろう」という前提のまま10年が過ぎ、いよいよという段階で断られる場合があります。時期を定めて正面から確認し、その回答を記録に残すことをお勧めいたします。

第2の能力につきましては、他社での勤務の経験、自社での職務の履歴、取引先及び金融機関との関係の構築の度合いにより判断いたします。育成の計画を年単位で作り、権限を段階的に移すことが有効です。

第3の他の親族の理解につきましては、株式が分散している場合に問題となります。相続に関する事項、遺留分に関する事項は、法律事務に当たりますので、当法人では取り扱いません。非上場株式の相続をめぐる問題につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所が運営する媒体において取り扱っております。

従業員への承継

事業の内容を熟知する者へ引き継ぐ点で、取引先及び従業員の納得を得やすい道筋です。障害となるのは、ほぼ例外なく資金と個人保証の2点です。

株式を買う資金をどう手当てするか

株式の評価額が1億円である会社を、年収900万円の役員が個人の資金で買い取ることは容易ではありません。実務では、次の方法が用いられます。第1に、後継者が設立した会社が金融機関から借り入れて株式を取得し、対象会社の利益により返済する方法です。第2に、対象会社が自己株式として一部を取得し、残りを後継者が取得する方法です。第3に、株式の移転を数年に分けて行う方法です。第4に、役員退職慰労金の支給により株式の評価額を引き下げたうえで移転する方法です。

いずれの方法によるかは、資金の調達の可否、税務上の取扱い、及び他の株主の存否により異なります。税務上の取扱いにつきましては税理士の領分ですので、当法人は税額の計算及び税務上の判断を行いません。

個人保証をどう引き継ぐか

金融機関からの借入れについてオーナーが個人保証を行っている場合、承継に際してこの保証をどうするかが問題となります。後継者が新たに保証を行うことに難色を示す例、金融機関が前のオーナーの保証の解除に応じない例のいずれもあります。

「経営者保証に関するガイドライン」及び令和6年3月15日に開始された事業者選択型経営者保証非提供制度は、一定の要件の下で保証を求めない取扱いを促すものです。制度の存在と趣旨は以上のとおりですが、自社が要件を満たすか否かの判断は個別の事案への当てはめですので、当法人では判断いたしません。金融機関との協議は早い段階で始めることをお勧めいたします。

第三者への譲渡

社外の会社へ株式を譲り渡す道筋です。4つのうち、オーナーの手取りが最も大きくなる可能性があり、かつ後継者を社内又は親族に求める必要がない点が特徴です。

他方、相手を選ぶ作業が加わります。候補先の探索、初期の打診、条件の提示の受領、詳細な調査、最終契約の締結という工程を経ますので、6箇月から1年半を要します。また、従業員及び取引先へ知らせる時期を誤りますと、動揺が生じます。知らせる時期は、最終契約の締結の後とすることが一般的です。

手取りの見込みを早い段階で把握するためには、企業価値の評価の考え方を理解しておくことが有用です。評価の方法と、実際の取引価格との相違につきましては、当法人の別のページに整理しております。

廃業

事業を終え、会社を清算する道筋です。負債が資産を上回らない場合には、通常の清算の手続によります。

手取りの面では、多くの場合、他の3つの道筋を下回ります。理由は2点です。第1に、機械、車両、在庫は、事業として一体で譲る場合に比べ、個別に処分すると著しく安くなります。第2に、許認可、顧客の名簿、従業員の技能といった、決算書に表れない価値は、清算では金額になりません。

加えて、賃借している建物の原状回復、機械の撤去、産業廃棄物の処理に相当の費用を要します。廃業を検討される場合には、まず処分の見込額と清算に要する費用を試算し、第三者への譲渡の場合の手取りと比較してください。負債が資産を上回る場合の手続は法律事務に当たりますので、当法人では取り扱いません。

数値による例示 同じ会社について4つの道筋を並べる

売上高4億円、利払前税引前償却前利益4,000万円、純資産1億2,000万円、有利子負債8,000万円、機械及び車両の帳簿価額6,000万円、在庫3,000万円、従業員25名の会社を想定いたします。オーナーが受け取る金額の見込みを、道筋ごとに並べます。

道筋 オーナーが受け取る見込額 受け取る時期 主たる前提
親族への承継 0円から2,000万円 移転の時期 株式を無償又は低額で移転する場合
従業員への承継 8,000万円から1億2,000万円 数年に分割 後継者が調達できる資金の範囲による
第三者への譲渡 1億6,000万円から2億4,000万円 決済の日に一括 利益の4倍から6倍を対価とする場合
廃業 2,000万円から5,000万円 清算の結了時 機械及び在庫を個別に処分し、原状回復の費用を負担する場合

廃業の欄が小さくなる理由は明確です。機械及び車両の帳簿価額6,000万円は、個別に処分いたしますと2,000万円前後にとどまることが通例であり、在庫3,000万円も相当の値引きを要します。加えて、賃借している工場の原状回復及び産業廃棄物の処理に1,000万円を超える費用が生じることがあります。他方、第三者への譲渡では、これらが事業の一部として一体で評価されます。

もっとも、この例示は考え方を示すためのものであり、実際の金額は業種、立地、設備の状態、取引先の構成により大きく異なります。当法人は、特定の倍率を適正な相場として申し上げることはいたしません。

4つを一覧で比べる

観点 親族への承継 従業員への承継 第三者への譲渡 廃業
必要な資金の負担者 後継者(税の負担を含む) 後継者(株式の取得資金) 買主 オーナー(清算の費用)
要する期間 5年から10年 3年から5年 6箇月から1年半 1年から2年
雇用 継続 継続 条件として明示すれば継続 失われる
取引先 継続 継続 買主の方針による 代替先へ移る
オーナーの手取り 無償又は低額 中程度 最も大きくなり得る 最も小さいことが多い
個人保証の扱い 後継者へ引き継がれることが多い 後継者へ引き継がれることが多い 解除を条件とすることが多い 返済により消滅
後戻り 事実上可能 事実上可能 不可能 きわめて困難
先に確かめる事項 後継者の意思 資金と保証の手当て 譲れない条件の順位 処分の見込額

この表は、いずれかの道筋が優れていることを示すものではありません。手取りのみを見れば第三者への譲渡が有利に見えますが、ご自身が最も重んじる観点が「雇用の継続」であるか「後戻りの可否」であるかによって、結論は変わります。5つの観点に順位を付けることが、結論に至る最短の道です。

親族株主が複数いる会社で、いずれの道筋を採る場合にも先に確かめること

創業から年数を経た会社では、株式が兄弟、いとこ、又はその相続人に分散していることがあります。この場合、いずれの道筋を採るにしても、先に株主の現況を確かめる必要があります。

確かめる事項は5点です。第1に、株主名簿の記載と実際の保有状況とが一致しているか。第2に、株主の中に既に亡くなっている方がいないか。第3に、名義のみを借りた株式がないか。第4に、連絡が取れない株主がいないか。第5に、定款に株式の譲渡の制限に関する定めがあるか。

これらのうち、名義の帰属の判断、相続による承継の効力、及び所在の分からない株主に関する会社法上の手続の可否は、いずれも法律事務に当たりますので、当法人では判断いたしません。当法人は、株主名簿の整理、資料の収集、及び関係者の一覧の作成をご支援いたします。

株式が分散している場合の整理に要する期間

株主が5名以内で全員と連絡が取れる場合、整理には3箇月から6箇月を要します。相続が未了の株式が含まれる場合には、相続人の確定に要する期間が加わり、1年を超えることがあります。所在の分からない株主が含まれる場合には、会社法上の手続を要し、さらに期間が延びます。

いずれの道筋を採る場合であっても、この整理は先に済ませておくほうが有利です。第三者への譲渡では、株式が整っていないことを理由に、買主が対価の一部を留保し、又は取引そのものを見送ることがあります。従業員への承継においても、他の株主の同意が得られないことにより計画が止まります。

「まだ決められない」段階で先に手を付けておくべきこと

結論が出ないまま時間が過ぎることを避けるため、いずれの道筋にも共通して有効な準備があります。第1に、直近3期分の決算書と、部門別又は事業別の採算の把握です。第2に、株主名簿と登記事項証明書の突合です。第3に、経営者個人と会社との間の貸借の整理です。第4に、会社が使用している不動産及び車両の名義の確認です。第5に、主要な取引先との契約書の有無の確認です。第6に、金融機関からの借入れと個人保証の一覧の作成です。

これらは、いずれの道筋を選んだ場合にも必ず求められる情報です。着手が早いほど、選択肢は広く保たれます。

相談すべき時期

最も適する時期は、後継者の候補に正面から意思を確認する前後です。断られてから慌てて他の道筋を探す場合と、あらかじめ4つを比較しておく場合とでは、選択肢の広さが異なります。

次に適する時期は、経営者が60歳に達した時点です。第三者への譲渡には1年半、従業員への承継には5年、親族への承継には10年を要しますので、逆算いたしますと、60歳の時点で比較を始めることが遅すぎない時期といえます。

相談の前に用意する資料

次の資料をお手元にお集めください。第1に、直近3期分の決算書及び法人税の申告書です。第2に、株主名簿及び登記事項証明書です。第3に、金融機関からの借入れの一覧と、個人保証の有無が分かる書面です。第4に、会社が使用している不動産の登記事項証明書又は賃貸借契約書です。第5に、従業員の名簿(年齢、勤続年数、職務)です。第6に、5つの観点にご自身で順位を付けた覚書です。

結論を出す前に確認する事項

次の8項目を書面により確認いたします。第1に、5つの観点のうち、最も重んじるものは何か。第2に、後継者の候補に意思を確認したか、その回答はいつのものか。第3に、従業員への承継を採る場合、資金の手当ての方法は決まっているか。第4に、個人保証の解除について金融機関と協議したか。第5に、株主名簿と実際の保有状況は一致しているか。第6に、廃業の場合の処分の見込額と清算の費用を試算したか。第7に、第三者への譲渡の場合の手取りの見込みを把握しているか。第8に、決断の期限を自ら定めているか。

第8が空欄である限り、検討は続いても結論は出ません。期限を定めることが、比較を実際の判断に変える唯一の方法です。

当法人及び弁護士法人M&A総合法律事務所の関与

当法人は、4つの道筋の比較の整理、第三者への譲渡を選ばれた場合の手取りの見込みの試算、候補先の探索、資料の整理、及び日程の管理につきまして、M&Aの助言としてご支援いたします。

他方、相続及び遺留分に関する事項、株式の名義の帰属の判断、所在の分からない株主に関する会社法上の手続、負債が資産を上回る場合の手続、並びに契約書の作成及び審査は、弁護士でなければ行うことができない業務に当たります。これらにつきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。また、株式の評価に関する税務上の取扱い及び税額の計算は税理士の領分ですので、当法人では取り扱いません。

よくあるご質問

子どもに継ぐ意思があるかどうか、どう確かめればよいですか。
時期を定めて正面から尋ね、回答を記録に残してください。「いずれ話す」という状態が続く限り、他の道筋の検討も進みません。回答が「継がない」であっても、それは失敗ではなく、比較を始める合図です。

役員に継がせたいのですが、株式を買う資金がありません。
後継者が設立した会社による取得、対象会社による自己株式の取得、数年に分けた移転、役員退職慰労金の支給による評価額の引下げといった方法があります。いずれによるかは資金の調達の可否と税務上の取扱いにより異なりますので、金融機関及び税理士との協議を早い段階で始めてください。

外部に売ることに抵抗があります。
抵抗の内容を分けて考えることをお勧めいたします。雇用が失われることへの懸念であれば、雇用の継続を条件として明示することで対応できます。取引先への説明が難しいという懸念であれば、知らせる時期と順序を定めることで対応できます。会社が自分の手を離れることそのものへの抵抗であれば、それは条件では解消いたしませんので、5つの観点の順位付けにおいて「後戻りの可否」を上位に置いてください。

廃業のほうが手続は簡単ではありませんか。
手続の簡便さと手取りとは別の問題です。清算では、機械、在庫、許認可、従業員の技能が金額に反映されず、原状回復及び撤去の費用も生じます。まず処分の見込額と清算の費用を試算し、第三者への譲渡の場合の手取りと並べてご比較ください。

4つのうち、当法人はどれを勧めますか。
当法人は特定の道筋を勧めません。5つの観点にご自身で順位を付けていただき、その順位に従って比較の結果を整理することが、当法人の役割です。

まとめ

後継者の問題には、親族への承継、従業員への承継、第三者への譲渡、廃業という4つの道筋があります。この4つは、必要な資金、要する期間、雇用と取引先への影響、オーナーの手取り、後戻りの可否という同じ5つの物差しで並べることができます。

期間の面では、親族への承継が10年、従業員への承継が5年、第三者への譲渡が1年半、廃業が2年を要します。したがって、経営者が60歳に達した時点で比較を始めることが、選択肢を最も広く保つ方法です。

結論は、5つの観点のうち何を最も重んじるかによって定まります。まず順位を付け、次に決断の期限を定めてください。当法人は、その比較の整理と、第三者への譲渡を選ばれた場合の実務のご支援を行っております。

当法人はM&Aの仲介及び助言を行う一般社団法人です。訴訟、交渉の代理、法律事務の取扱いなど、弁護士でなければ行うことができない業務は取り扱いません。これらに当たる部分は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

会社の承継をご検討の経営者様に向けて、当法人の取扱内容、進め方及び費用の考え方を次のご案内に整理しております。

なお、相続及び遺留分に関する事項、株式の名義の帰属の判断、所在の分からない株主に関する手続、契約書の作成及び審査その他の法律事務につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所において承っております。