経営者保証の解除 譲渡に際して個人保証を外すための手順と、外れない場合の対応
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本ページは、会社の譲渡の手続に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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会社を譲り渡しても、金融機関に対する個人保証が残ったままでは、経営者の方の目的は達せられません。株式を手放して経営から退いた後に、譲渡先の経営が悪化し、保証人として請求を受けるという事態は、現実に生じ得るものです。
保証は、金融機関と保証人との間の契約ですので、会社の株主が変わったからといって当然に消滅するものではありません。解除を得るには、金融機関との個別の協議を要します。本頁では、解除に至る手順、解除が得られない場合の対応、及び譲渡の日程との関係を申し上げます。
保証が当然には消滅しない理由
経営者保証は、会社の債務を主たる債務とし、経営者が保証人となる契約です。契約の当事者は金融機関と保証人であり、会社の株主構成の変動は、この契約の効力に影響を及ぼしません。株式譲渡契約書において「買主が保証の解除に努める」と定めたとしても、それは売主と買主との間の約束にとどまり、金融機関を拘束するものではありません。
また、根保証の場合には、保証の対象となる債務の範囲が継続的に生じる債務とされておりますので、譲渡の後に生じた借入金についてまで責任を負う可能性があります。個人根保証契約におきましては、極度額を定めなければ効力を生じないとされておりますが(民法第465条の2第2項)、この規律は、法人が主たる債務者である貸金等根保証にも及びます。極度額の定めの有無及び金額を、契約書により確認する必要があります。
経営者保証に関するガイドライン
平成25年12月に、日本商工会議所及び一般社団法人全国銀行協会を事務局とする研究会により、経営者保証に関するガイドラインが公表されております。法令ではありませんが、金融機関において自主的に尊重されるものと位置付けられております。
ガイドラインは、事業承継の場面につき、前経営者の保証を解除するか否かを、事業承継後の資産及び収益力を勘案して判断すること、及び前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めることを原則として行わないことを求めております。
解除の判断に当たり重視される要素は、次のとおりです。
- 法人と経営者個人の資産及び経理が明確に区分されていること
- 法人のみの資産及び収益力により借入金の返済が可能であること
- 金融機関に対し、財務情報が適時かつ適切に開示されていること
公的な制度の活用
中小企業庁は、令和6年3月15日から、保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証の制度を開始しております。事業者選択型経営者保証非提供制度と呼ばれるものです。一定の財務要件を満たす場合に、保証料率の上乗せと引換えに経営者保証を提供せずに信用保証を受けられる仕組みです。
また、中小企業庁は、令和6年8月に中小M&Aガイドラインを第3版に改訂し、支援機関の遵守すべき事項を明らかにしております。譲渡の局面における経営者保証の取扱いにつきましても、支援に当たっての留意点が示されております。
解除に至る手順
- 保証の全体像の把握 金融機関ごとに、借入残高、保証の種類(特定債務の保証か根保証か)、極度額、担保の状況、連帯保証人の範囲を一覧といたします。信用保証協会の保証が付されている場合、協会に対する求償債務の保証の有無も確認いたします
- 買主との条件の合意 解除の実現を、クロージングの前提条件とするのか、努力義務とするのか、解除されない場合の代替措置を設けるのかを、株式譲渡契約書において定めます
- 金融機関への説明 譲渡の事実、買主の信用力、譲渡後の事業計画及び返済の見通しを説明いたします。買主の同席が有効です
- 買主による保証の差入れ又は代替措置 多くの場合、買主又はその代表者が新たに保証人となることを求められます。買主が資本力を有する法人である場合には、法人保証により対応する例があります
- 解除の書面の取得 保証債務の免除又は保証契約の解約について、書面を受領いたします。口頭の了解にとどめてはなりません
解除が得られない場合の対応
金融機関が解除に応じない場合、次の方法が検討されます。
| 方法 | 内容及び留意点 |
|---|---|
| 借入金の借換え | 買主が新たに融資を受けて既存の借入金を返済いたします。既存の債務が消滅いたしますので、保証も消滅いたします。最も確実な方法です |
| クロージング時の一括返済 | 譲渡代金の一部により返済いたします。代金の手取額が減少いたします |
| 買主による損害担保の約束 | 売主が保証人として支払をした場合に、買主が同額を補償する旨を株式譲渡契約書に定めます。買主の資力に依存いたします |
| 代金の一部の留保 | 解除が完了するまで代金の一部を留保し、解除の後に支払う仕組みです |
| 解除をクロージングの前提条件とする | 解除が得られない限り実行しないものといたします。売主にとって最も安全ですが、取引が成立しない危険を伴います |
実務上は、主要な金融機関については解除を前提条件とし、金額の小さい借入金については損害担保の約束によるという組合せが用いられることがあります。
保証が残ったまま譲渡した場合に生じる事態
- 譲渡先において返済が滞った場合、保証人として請求を受けます。既に株主でも役員でもありませんので、会社の状況を把握する手段がありません
- 根保証である場合、譲渡の後に生じた借入金についても責任を負う可能性があります
- 保証債務を履行した場合、主たる債務者である会社に対して求償することができますが(民法第459条、第462条)、会社の資力が不足していれば回収は困難です
- 自己の資産に対する強制執行を受ける可能性があります
保証債務の履行を求められた場合の対応につきましては、廃業と経営者保証に関するご案内をご覧ください。
相談すべき時期
経営者保証に関するご相談は、基本合意書を締結する前にいただくことが望まれます。金融機関との協議には数か月を要することがあり、また、解除の見通しによって譲渡の条件そのものを設計し直す必要が生じるためです。
特に、解除の見込みが立たない場合には、借換えの原資を含めた価格の設定、又はクロージングの前提条件としての位置付けを、早期に買主と協議しておく必要があります。基本合意書の締結及び株式譲渡契約書の交渉をご参照ください。
相談の前に用意する資料
- 金融機関ごとの借入金の一覧(残高、金利、返済期限)
- 金銭消費貸借契約書及び保証に関する契約書の写し
- 根保証の場合、極度額及び元本確定期日の定めが分かる書面
- 担保に供している不動産の登記事項証明書
- 信用保証協会の保証の有無が分かる書面
- 直近3期分の決算書一式
- 買主の概要が分かる資料
金融機関へ説明する前に確認する事項
- 保証の種類が特定債務の保証であるか根保証であるか。根保証である場合、極度額及び元本確定期日
- 連帯保証人が他に存在するか。配偶者又は親族が保証人となっていないか
- 買主が保証人となることを承諾しているか。承諾の内容が書面により確認できるか
- 譲渡後の事業計画及び返済の見通しを、資料により示すことができるか
- 説明の時期が、従業員及び取引先への情報の管理と整合しているか
- 解除が得られない場合の代替措置について、買主との間で合意ができているか
当法人及び弁護士法人M&A総合法律事務所の関与
経営者保証の解除は、金融機関との交渉と、買主との契約条件の設計とを同時に進める必要がある領域です。解除の見通しが立たないまま契約の交渉を進めますと、クロージングの直前に条件の見直しを迫られることとなります。当法人は、保証の全体像の把握、金融機関への説明の設計及び買主との条件の調整をご支援いたしております。保証債務に関する法律事務並びに株式譲渡契約書における前提条件及び補償の条項の設計につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所が担当いたします。
保証の全体像を把握するための一覧表
経営者保証の解除を金融機関に申し入れる前に、次の一覧を作成いたします。この一覧がないまま協議に臨みますと、金融機関ごとに話が食い違い、交渉が長引きます。
| 確認項目 | 確認の方法及び留意点 |
|---|---|
| 金融機関の名称及び支店 | 当座勘定照合表、返済予定表により確認いたします |
| 借入金の残高及び返済期限 | 直近の残高証明書を取得いたします |
| 保証の種類 | 特定の債務の保証か、根保証かにより、解除の難易が異なります |
| 根保証の極度額 | 個人根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じません(民法第465条の2第2項) |
| 元本確定期日 | 貸金等根保証契約においては、締結の日から5年を超える元本確定期日の定めは効力を生じません(民法第465条の3第1項)。定めがない場合は3年とされます(同条第2項) |
| 連帯保証人の範囲 | 配偶者又は親族が保証人となっている場合、その解除も併せて協議いたします |
| 担保の状況 | 個人資産に抵当権が設定されている場合、その抹消も協議の対象となります |
| 信用保証協会の保証の有無 | 協会保証付きの場合、協会に対する求償債務の保証の解除も要します |
解除の見込みを、あらかじめ自己診断する
経営者保証に関するガイドラインが重視する要素に照らし、次の各項目により見込みを診断できます。該当が多いほど、解除が得られやすいです。
| 項目 | 確認の内容 |
|---|---|
| 法人と個人の資産の分離 | 事業に用いる不動産が法人名義であるか。経営者個人の名義である場合、賃貸借契約により適正な賃料が支払われているか |
| 法人と個人の経理の分離 | 経営者に対する貸付金及び借入金が存在しないか。存在する場合、譲渡の前に精算できるか |
| 役員報酬の妥当性 | 同業種、同規模の水準と比較して著しく高額でないか |
| 財務基盤 | 自己資本比率、借入金の月商倍率、債務償還年数。法人のみの資産及び収益力により返済が可能であるか |
| 財務情報の開示 | 試算表を定期的に提出しているか。決算の内容につき説明を行っているか |
| 買主の信用力 | 買主又はその代表者が保証人となることを承諾しているか |
金融機関への説明の順序と、伝えるべき事項
- 説明の時期 基本合意書の締結の後、デュー・ディリジェンスと並行して行うのが通例です。あまり早い時期に伝えますと、取引が成立しなかった場合に与信の見直しを招く可能性があります
- 説明の相手方 支店の担当者のみでなく、決裁権限を有する立場の方に伝わるよう依頼いたします
- 伝えるべき事項 譲渡の理由(後継者の不在等)、買主の概要、譲渡後の事業の継続の見通し、返済の計画、経営者保証の解除の申入れ
- 買主の同席 買主が同席し、事業の継続の意思及び保証の引受けの意向を示すことが、最も効果的です
- 資料 直近の決算書、譲渡後の事業計画、買主の会社概要及び決算書(買主の同意が得られる範囲において)
- 回答の期限 クロージングの予定日から逆算し、回答を得る時期を明示いたします
金融機関の対応の類型と、それぞれへの対応
| 金融機関の対応 | 売主が採るべき対応 |
|---|---|
| 買主又はその代表者の保証への差替えに応じる | 最も一般的です。解除の書面を必ず受領いたします |
| 法人保証(買主が法人である場合)に応じる | 買主が相応の規模を有する場合に見られます |
| 保証を不要とする | 財務基盤が良好な場合に見られます。ガイドラインの趣旨に沿う対応です |
| 一部の返済を条件とする | 返済の原資を譲渡代金から手当てするか、買主に負担を求めるかを協議いたします |
| 回答を留保する | クロージングの日程に影響いたします。期限を区切って回答を求めます |
| 解除に応じない | 借換え、一括返済、損害担保の約束、代金の留保等の代替措置を検討いたします |
数値による例示 解除が得られない場合の負担
借入金3億円、譲渡代金5億円の事案を想定いたします。主要な金融機関である甲銀行の借入金2億円につき解除が得られ、乙信用金庫の借入金1億円につき解除が得られなかった場合、売主が採り得る対応と手取額は次のとおりです。
| 対応 | 手取額への影響 | 残る危険 |
|---|---|---|
| 乙の借入金1億円を譲渡代金から返済する | 手取額は4億円に減少いたします | 保証は消滅し、危険は残りません |
| 買主が借換えにより返済する | 影響はありません | 借換えが実行されるまでの間、保証が存続いたします |
| 買主による損害担保の約束による | 影響はありません | 買主の資力に依存いたします。最大1億円の負担が残ります |
| 代金1億円を留保し、解除の後に支払う | 当面の手取額は4億円です | 解除が得られなければ、留保分を受領できない可能性があります |
| 解除をクロージングの前提条件とする | 影響はありません | 取引が成立しない危険があります |
いずれの方法によるかは、乙の借入金の返済期限、買主の資力、譲渡の緊急性を勘案して決定いたします。解除の見込みが立たないまま契約の交渉を進めることが、最も避けるべき事態です。
経営者保証をめぐって実際に生じる誤解
- 「株式を譲渡すれば保証も自動的に外れる」 保証は金融機関と保証人との間の契約であり、株主の変動により消滅いたしません
- 「契約書に買主が解除に努めると書けば足りる」 当事者間の約束にとどまり、金融機関を拘束いたしません
- 「ガイドラインがあるから当然に外れる」 ガイドラインは法令ではなく、金融機関が自主的に尊重するものです
- 「役員を退任すれば保証人でなくなる」 退任は保証契約の終了事由ではありません。個別に解除の合意を要します
- 「保証人が支払っても会社に請求すればよい」 主たる債務者に対する求償権は生じますが(民法第459条、第462条)、会社の資力が不足していれば回収は困難です
事業者選択型経営者保証非提供制度の位置付け
令和6年3月15日から、事業者選択型経営者保証非提供制度が開始されております。これは、一定の要件を満たす事業者が、信用保証協会の保証を利用する際に、経営者保証を提供しないことを選べる制度です。要件は、法人と経営者との資産及び経理が明確に区分されていること、法人のみの資産及び収益力により返済が可能であること、金融機関に対し財務情報を適時に開示していることの3点を、いずれも満たすことです。加えて、直近の決算において債務超過でないこと、及び返済の履行に必要な利益が確保されていることが求められます。
この制度は、譲渡の場面で直接に用いるものではありませんが、間接的に大きな意味を持ちます。売主が在任中にこの制度の要件を満たす体制を整えておけば、譲渡に際して保証の解除を求める際の説得力が高まるからです。反対に、経営者個人との貸借が残り、個人資産と法人資産の区分が曖昧なままであれば、買主が承継する側の保証を引き受ける際にも支障が生じます。
金融機関との協議の日程
保証の解除に関する協議は、譲渡の日程と並行して進めます。目安は次のとおりです。基本合意の締結から2週間以内に、取引金融機関ごとに保証の残高及び根保証の極度額を一覧にいたします。同じ時期に、買主の信用力を示す資料(買主の決算書、事業計画、保証の引受けの意向)を買主から受領いたします。基本合意から1か月ないし2か月の時点で、主要な取引金融機関に対し、譲渡の予定と保証の取扱いについて第1回の説明を行います。デュー・ディリジェンスの終了後、最終契約の締結までに、各金融機関の意向を書面により確認いたします。クロージングの日に、保証の解除又は保証人の変更の手続を、代金の決済と同時に行います。
この日程で最も重要なのは、第1回の説明の時期です。早すぎれば情報が漏れる危険があり、遅すぎれば金融機関の内部の決裁が間に合いません。基本合意の締結により買主が確定した段階が、実務上の適期です。
金融機関の対応の3つの類型
保証の解除の申入れに対する金融機関の対応は、おおむね次の3つに分かれます。第1の類型は、買主が保証を引き受けることを条件として解除に応じるものです。最も多い対応であり、買主の側の意向の確認が鍵となります。第2の類型は、借入金の借換えを条件とするものです。買主の資金により既存の借入れを完済し、買主の取引金融機関から新たに借り入れる形をとります。この場合、解除は完済により当然に生じます。第3の類型は、解除に応じないものです。この場合には、譲渡の実行そのものを見直すか、代金の一部を保証に対応する担保として留保するかの判断を要します。
当法人はM&Aの仲介及び助言を行う一般社団法人です。訴訟、交渉の代理、法律事務の取扱いなど、弁護士でなければ行うことができない業務は取り扱いません。これらに当たる部分は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。
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