クロージング 前提条件の充足、株主名簿の書換え及び代金の決済の手順

株式譲渡契約書に署名した後、代金の決済までには通常1か月から2か月の間隔があります。この期間に、前提条件として定めた事項を一つずつ充足してまいります。契約の日と決済の日とを分ける理由は、取引先の同意の取得、許認可の届出、経営者保証の解除等に時間を要するためです。

クロージングの当日は、書類の授受と送金の確認を、順序を誤らずに行う必要があります。株券発行会社であるか否か、株主名簿の書換えをどの時点で行うかによって、手順が異なります。本頁では、当日までの準備と当日の手順を申し上げます。

契約の日から決済の日までに行うこと

  1. 譲渡の承認 定款に譲渡制限の定めがある場合、株主総会又は取締役会の承認の決議を得ます(会社法第139条第1項)。議事録を作成いたします
  2. 取引先からの同意の取得 支配権の変動に関する条項がある契約につき、相手方の同意を書面により取得いたします
  3. 許認可に関する手続 役員の変更につき届出又は認可を要する事業につき、所管の官庁と事前に協議いたします
  4. 経営者保証の解除 金融機関との協議を完了させます
  5. 少数株主からの株式の取得 前提条件とされている場合、完了させます
  6. 経営者個人との貸借の精算 役員に対する貸付金及び借入金を清算いたします
  7. 非事業用の資産の処分 合意した範囲において実行いたします
  8. 役員の辞任及び後任の選任の準備 辞任届及び就任承諾書を用意いたします
  9. 従業員への説明の準備 説明の時期、内容及び順序を、買主と協議して定めます

クロージングの当日に授受する書類

売主が交付するもの

  • 株式譲渡承認請求書及び承認の決議に係る議事録の写し
  • 株主名簿の名義書換請求書
  • 株券(株券発行会社の場合)
  • 売主の印鑑証明書
  • 対象会社の履歴事項全部証明書、定款、印鑑証明書
  • 実印、銀行印、代表者印及び印鑑カード
  • 預金通帳、証書、キャッシュカード
  • 役員の辞任届
  • 重要な契約書の原本、許認可の証明書、登記済証又は登記識別情報
  • 表明保証が真実である旨の証明書(定めがある場合)
  • 前提条件が充足された旨の証明書(定めがある場合)

買主が交付するもの

  • 代金の送金を証する書面
  • 後任の役員の就任承諾書及び印鑑証明書
  • 買主の会社の登記事項証明書
  • 取締役会等の承認に係る議事録の写し

当日の手順

  1. 前提条件が全て充足されていることを、双方において確認いたします
  2. 各証明書及び書類の授受を行います
  3. 買主が代金を送金いたします
  4. 売主が着金を確認いたします。金融機関の窓口の営業時間を考慮して開始の時刻を定める必要があります
  5. 着金の確認の後に、株主名簿の書換えを行い、株主名簿記載事項証明書を交付いたします
  6. 株主総会を開催し、役員の選任の決議を行います。売主側の役員が辞任し、買主側の役員が就任いたします
  7. 登記の申請の準備を行います。役員の変更の登記は、変更の日から2週間以内に申請しなければならないとされております(会社法第915条第1項)

着金の確認の前に株主名簿の書換えを行ってはなりません。代金の支払と株式の移転とは同時に履行されるべきものです。

株券発行会社である場合の留意点

定款に株券を発行する旨の定めがある会社におきましては、株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じません(会社法第128条第1項)。株券を現実に発行していない場合、次のいずれかの対応を要します。

  • クロージングまでに株券を発行する
  • 定款を変更し、株券不発行会社とする。株券発行会社である旨の定めを廃止する定款の変更をした場合、その効力の発生の日等を公告し、株主等に通知する必要があります(会社法第218条第1項)

いずれの対応にも時間を要しますので、契約の締結の前に方針を定めておく必要があります。

従業員への説明

従業員への説明は、クロージングの当日又はその直前に行うのが通例です。説明の順序及び内容は、あらかじめ買主と協議して定めておく必要があります。

  • 説明の主体は、原則として現経営者といたします。買主が同席するか否かは事案により異なります
  • 雇用が維持されること、労働条件が直ちに変更されるものではないことを、事実に基づき説明いたします。確約できない事項につき、確約と受け取られる表現を用いてはなりません
  • 主要な取引先への説明の時期及び順序を定めます。従業員への説明より前に取引先へ伝わることは避けるべきです
  • 説明の資料は、買主と内容を確認したうえで用います

クロージングの後に行うこと

  • 役員の変更の登記の申請
  • 金融機関に対する代表者の変更の届出、印鑑の変更
  • 取引先に対する代表者の変更の通知
  • 許認可に係る変更の届出
  • 社会保険及び労働保険に係る届出
  • 代金の調整がある場合、計算書の作成及び確認
  • 引継ぎの実施。期間及び内容は、株式譲渡契約書又は別途の契約により定めます

引継ぎの内容につきましては、譲渡の後の統合をご覧ください。

相談すべき時期

クロージングに関するご相談は、株式譲渡契約書の締結の前にいただくことが望まれます。前提条件として何を定めるか、株券の取扱いをどうするかは、契約書において定めるべき事項であるためです。

契約の締結の後でありましても、前提条件の充足の管理及び当日の手順の設計につき、ご支援することができます。株式譲渡契約書の交渉をご参照ください。

相談の前に用意する資料

  • 株式譲渡契約書
  • 定款及び履歴事項全部証明書
  • 株主名簿
  • 株券を発行している場合、その現物又は保管の状況
  • 支配権の変動に関する条項がある契約書の一覧
  • 許認可の証明書
  • 金融機関との協議の状況が分かる資料

決済の日を迎える前に確認する事項

  • 前提条件の全てにつき、充足の状況を一覧により管理しているか
  • 譲渡の承認の決議を経ているか。議事録が作成されているか
  • 株券発行会社である場合、株券の交付又は定款の変更の手当てが完了しているか
  • 着金の確認の後に株主名簿を書き換える手順となっているか
  • 役員の辞任届及び就任承諾書並びに印鑑証明書が揃っているか
  • 従業員への説明の時期、主体及び内容が買主と合意されているか
  • 登記の申請を担当する者が定まっているか
  • 経営者保証の解除の書面を受領しているか

当法人及び弁護士法人M&A総合法律事務所の関与

クロージングは、事務的な作業のように見えますが、書類の一つが欠けるだけで実行が延期されます。延期は、当事者双方の信頼を損ない、条件の再交渉の契機となります。当法人は、前提条件の充足の管理、書類の一覧の作成、当日の進行の設計及び従業員への説明の準備をご支援いたしております。譲渡の承認の手続、株券に関する手当て、株主名簿の書換え及び登記の申請につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所が担当いたします。

クロージング当日の時刻表

当日は、着金の確認を境として作業が二分されます。金融機関の窓口の営業時間を考慮し、余裕をもった時刻を設定いたします。

時刻 行うこと 担当
9時30分 集合。前提条件の充足の一覧により、双方が確認 双方及び助言者
10時00分 各証明書及び書類の授受。原本の点検 双方
10時30分 前提条件が充足された旨の証明書の交付 売主
11時00分 買主による送金の手続 買主
11時30分から13時00分 着金の確認。売主が取引金融機関に確認いたします 売主
着金の確認の後 株主名簿の書換え。株主名簿記載事項証明書の交付 対象会社
同上 株主総会の開催。役員の選任の決議。売主側の役員の辞任 双方
同上 実印、銀行印、印鑑カード、通帳の引渡し 売主
15時00分 従業員への説明 売主(買主の同席は事案による)
翌営業日以降 役員の変更の登記の申請。金融機関への届出 買主側

着金の確認の前に株主名簿を書き換え、又は印鑑を引き渡してはなりません。代金の支払と株式の移転とは同時に履行されるべきものです。

前提条件の充足を管理する一覧の作り方

株式譲渡契約書の締結の直後に、次の形式の一覧を作成し、双方で共有いたします。これがないと、クロージングの直前に不足が判明いたします。

条項 条件 担当 期限 状況 証憑
第○条第1号 株式譲渡の承認の決議 売主 クロージングの2週間前 完了 議事録
第○条第2号 甲社からの支配権の変動に関する同意 売主 クロージングの1週間前 依頼中 同意書
第○条第3号 乙銀行の経営者保証の解除 双方 クロージング当日 協議中 解除の書面
第○条第4号 役員に対する貸付金の精算 売主 クロージングの前日 未着手 入金の記録

状況の欄は、週に1回は更新いたします。期限を過ぎた項目が生じた場合、直ちに双方で対応を協議いたします。

クロージングが延期される典型的な原因

原因 予防の方法
取引先からの同意が得られない 契約書の締結の前に、同意の要否及び取得の見込みを確認いたします。努力義務にとどめる交渉も検討いたします
経営者保証の解除が間に合わない 基本合意書の段階から金融機関との協議を開始いたします
株券の所在が不明である 株券発行会社であるか否かを準備の段階で確認し、必要に応じて定款を変更いたします
許認可の変更の届出に時間を要する 所管の官庁に事前に相談し、必要な期間を把握いたします
後任の役員の印鑑証明書が揃わない 1週間前までに全ての書類を揃える旨を合意いたします
買主の資金の調達が遅延する 契約書の締結の前に、調達の裏付けを確認いたします
少数株主からの取得が完了しない 準備の段階で集約を完了させることが理想です

延期は、当事者双方の信頼を損なうのみでなく、条件の再交渉の契機となります。売主にとって不利に働くことが多くありますので、予防に努める必要があります。

従業員への説明の文例と、述べてはならないこと

説明は、事実に基づき、確約できない事項を確約しないことが肝要です。

述べてよいこと 述べてはならないこと
「本日、当社の株式を○○社に譲渡いたしました」 「今までと何も変わりません」(変わり得ます)
「会社は存続し、事業も継続いたします」 「全員の雇用を私が保証します」(保証する立場にありません)
「皆さんの雇用は、譲渡によって当然に終了するものではありません」 「給与は絶対に下がりません」(決定権は買主にあります)
「私は○月まで引継ぎのため在籍いたします」 「私はずっと残ります」(契約により定まっております)
「今後の運営については、新しい経営陣から説明があります」 「不安があれば私に言ってください」(新体制の機能を妨げます)

クロージングの後30日以内に行う手続の一覧

手続 期限 根拠等
役員の変更の登記 変更の日から2週間以内 会社法第915条第1項
金融機関への代表者の変更の届出 速やかに 各金融機関の定めによります
許認可に係る変更の届出 法令の定めによる 事業の種類により異なります
社会保険及び労働保険に係る届出 速やかに 代表者の変更に伴うもの
取引先への通知 速やかに 説明の順序を買主と協議いたします
代金の調整の計算書の作成 契約の定めによる 30日から60日とされることが多くあります
株主名簿の整備 速やかに 会社法第121条、第125条第1項

クロージングをめぐって実際に生じる誤解

  • 「契約書に署名すれば株式は移転する」 株券発行会社においては株券の交付が効力要件です(会社法第128条第1項)。また、譲渡制限のある会社では承認の決議を要します
  • 「代金は後日でもよい」 支払を受ける前に株式を移転いたしますと、回収の危険を負います
  • 「株主名簿は後で作ればよい」 株主名簿の書換えは、会社に対する対抗要件です(会社法第130条第1項)
  • 「登記は買主が勝手にやる」 役員の辞任届及び印鑑証明書の交付は売主の協力を要します。2週間の期限があります
  • 「従業員には後日でよい」 外部から伝わる方が動揺は大きいです。当日又は直後の説明が適切です

前提条件の消込みの様式

クロージングの前提条件は、契約書に列挙されたまま放置いたしますと、当日になって充足していない事項が判明いたします。締結の直後に、次の6欄からなる一覧を作成し、週に1回更新いたします。第1欄に条項の番号、第2欄に条件の内容、第3欄に充足の責任を負う者(売主か買主か双方か)、第4欄に充足の期限、第5欄に現在の状況(未着手、着手済み、完了)、第6欄に証憑となる書面の名称を記載いたします。

売主が責任を負う条件のうち、期間を要するものは次のとおりです。第1に、取引先からの承諾の取得です。支配権の変更に関する条項が置かれている契約については、書面による承諾を求めますので、相手方の社内の決裁に2週間から1か月を要します。第2に、許認可の承継又は再取得の手続です。第3に、経営者保証の解除に関する金融機関の内諾です。第4に、役員の退任及び後任の選任に関する株主総会の決議です。

延期が生じた場合の日程の組み直し

クロージングが延期される場合、単に日を後ろへ動かすだけでは足りません。次の4点を併せて確認いたします。第1に、代金の調整の基準日を動かすか否かです。基準日を動かせば、その後の運転資本の変動が代金に反映されます。第2に、役員の退任及び選任に係る株主総会の日程です。第3に、決算期をまたぐ場合の、直前期の決算に関する表明保証の追加です。第4に、契約書に定めた解除の権利が生じる期日(ロング・ストップ・デート)との関係です。延期により当該期日を超える場合には、期日そのものを変更する合意が必要です。

また、決済の当日は、書面の授受と資金の移動とを同時に行う必要がありますので、金融機関の営業時間を前提とした時刻表を作成いたします。着金の確認をもって株券又は株主名簿の記載事項証明書を交付するという順序を、あらかじめ双方で合意しておきます。

前提条件の一覧は、買主の側の担当者とも共有し、双方が同じ表を見ながら確認を進めます。

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