不動産を保有する会社の売却 不動産の評価、含み益の課税及び分離の可否

本社の土地建物、社宅、賃貸用の物件、あるいは先代が取得した遊休地。長く事業を続けてこられた会社は、多かれ少なかれ不動産を保有しております。この不動産の存在が、譲渡の交渉を難しくすることがあります。

理由は2つあります。第1に、不動産の評価は、事業の評価とは別の作業を要し、当事者間で開きが生じやすいこと。第2に、帳簿価額と時価との差額、すなわち含み益に対する課税の負担を、いずれが負うかという問題が生じることです。本頁では、これらの論点と、不動産を分離して譲渡する方法の可否を申し上げます。

買主が不動産を嫌う理由

  • 取得の対価が大きくなり、資金の調達が困難となります
  • 事業に用いていない不動産は、買主にとって収益を生みません
  • 含み益に対する課税の負担が、将来の売却時に生じます
  • 土壌の汚染、境界の未確定、建築基準法上の不適合等の危険を引き継ぎます
  • 賃貸用の不動産である場合、賃借人との紛争を引き継ぐ可能性があります

他方、事業に不可欠な不動産、例えば工場の敷地及び建物につきましては、買主も取得を望みます。この場合、問題となるのは評価の方法です。

不動産の評価の考え方

評価の方法 内容 用いられる場面
取引事例比較法 近隣の取引事例を基礎とし、事情を補正いたします 住宅地、更地
収益還元法 賃料収入を還元利回りにより資本還元いたします 賃貸用の物件
原価法 再調達に要する原価から減価修正を行います 工場、特殊な用途の建物

参考となる公的な指標として、地価公示、都道府県地価調査、相続税路線価及び固定資産税評価額があります。もっとも、相続税路線価は地価公示価格の8割程度を、固定資産税評価額は7割程度をそれぞれ目安として設定されているとされており、いずれも取引価格そのものを示すものではありません。

交渉が価格の相当な部分に及ぶ場合には、不動産鑑定士による鑑定評価を取得することが望まれます。当事者の一方が取得した鑑定評価に相手方が納得しない場合には、双方が鑑定を取得したうえで協議する例もあります。

含み益に対する課税の考え方

帳簿価額1億円、時価3億円の土地を保有する会社を想定いたします。この会社の株式を譲渡する場合、含み益2億円は、株式の譲渡の時点においては実現いたしません。会社が当該土地を売却した時点で、法人税等の課税の対象となります。

買主の立場からは、将来に課税の負担が生じることが確実である以上、株式の価格の算定において含み益の全額を評価に反映することは受け入れがたいという主張となります。そこで、含み益に対する法人税等相当額を控除することが交渉の対象となります。

控除の割合につきましては、確立した基準はありません。実効税率の全額を控除すべきであるとの主張と、売却の予定がない以上控除は不要であるとの主張とが対立いたします。財産評価基本通達に定める純資産価額方式におきましては、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除する取扱いが定められておりますが、これは相続税及び贈与税の課税上の評価の方法であり、M&Aの取引価格の算定に当然に適用されるものではありません。

この論点は、金額が大きくなりやすく、交渉の帰趨を左右いたします。合理的な根拠を示して協議する必要があります。株式の価値の評価の一般につきましては、会社の売却価格はどのように決まるのかをご覧ください。

不動産を分離する方法

買主が不動産の取得を望まない場合、又は経営者が不動産を手元に残すことを望む場合には、譲渡に先立って不動産を会社から分離することが検討されます。

方法 内容 留意点
経営者又は資産管理会社への売却 譲渡に先立ち、時価により売却いたします 会社に譲渡益が生じ、課税されます。買い受ける側の資金の手当てを要します。価額が時価と乖離する場合、寄附金又は役員給与として否認される危険があります
会社分割による分離 不動産を新設会社又は既存の会社に承継させます 株主総会の特別決議、債権者保護の手続及び労働者の保護の手続を要します。税制適格の要件を満たすか否かの検討が不可欠です
現物配当 剰余金の配当として不動産を交付いたします 分配可能額の範囲内である必要があります(会社法第461条)。株主において配当所得として課税されます
事業譲渡による方法 不動産を除く事業のみを譲渡いたします 許認可の承継、契約の相手方の同意、従業員の転籍の同意を要します

いずれの方法によりましても、譲渡の直前に実行いたしますと、租税回避との指摘を受ける可能性があります。事業上の合理的な理由を説明できる状態を整え、かつ、譲渡の交渉が具体化する前に実行することが望まれます。実行の前に、税理士及び弁護士による検討を経る必要があります。

不動産に固有の調査事項

不動産を保有する会社のデュー・ディリジェンスにおきましては、次の各点が調査されます。あらかじめ確認しておくことが望まれます。

  • 権利関係 登記名義が会社となっているか。先代の名義のままでないか。抵当権、根抵当権、賃借権、地上権の設定の状況
  • 境界 確定測量図の有無。隣地所有者との境界確認書の有無。越境物の存否
  • 法令上の適合 建築確認済証及び検査済証の有無。増築部分が未登記でないか。用途地域、建蔽率及び容積率への適合。既存不適格の有無
  • 土壌及び埋設物 過去の用途。土壌汚染対策法に基づく調査の履歴。地下タンク、埋設配管の存否
  • 賃貸借 賃貸借契約書、敷金及び保証金の残高、滞納の状況。定期建物賃貸借であるか否か
  • 固定資産税 評価額及び納付の状況。住宅用地の特例その他の軽減の適用の可否

相続により取得した不動産の登記が未了である場合には、注意を要します。相続登記の申請は、不動産登記法第76条の2により義務化されており、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならないとされております。また、所有権の登記名義人の住所等の変更の登記は、不動産登記法第76条の5により、変更があった日から2年以内に申請しなければならないとされております。

不動産の売却に伴う課税の一般につきましては、不動産の売却と税金に関する解説を、不動産を保有する会社の株式の評価につきましては、株式保有会社に関する解説及び土地保有特定会社に関する解説をご覧ください。

相談すべき時期

不動産を保有する会社の譲渡に関するご相談は、買主候補への打診を始める前にいただく必要があります。理由は次のとおりです。

  • 分離を行う場合、手続に3か月から1年を要します
  • 境界の確定、未登記建物の登記、相続登記の是正には相当の期間を要します
  • 譲渡の交渉が具体化した後に分離を実行いたしますと、租税回避との指摘を受けやすくなります

相談の前に用意する資料

  • 保有する不動産の一覧(所在、地目、地積、床面積、取得の時期、帳簿価額)
  • 登記事項証明書及び公図
  • 確定測量図(存在する場合)
  • 建築確認済証及び検査済証
  • 固定資産税の納税通知書及び評価証明書
  • 賃貸している場合、賃貸借契約書及び賃料の入金の記録
  • 直近3期分の決算書一式及び固定資産台帳
  • 過去に鑑定評価を取得している場合、その評価書

買主へ提示する前に確認する事項

  • 登記名義が会社となっているか。相続登記又は住所の変更の登記の未了がないか
  • 帳簿価額と時価との差額を把握しているか
  • 含み益に対する法人税等相当額の控除について、どのような主張をするか
  • 事業に用いていない不動産を分離するか、そのまま譲渡するか
  • 分離する場合、方法及び日程が確定しているか。税務上の検討を経ているか
  • 境界の未確定、越境、既存不適格等の事実を把握し、開示の方針を定めているか
  • 土壌の汚染の可能性がある用途に供されていた履歴がないか

当法人及び弁護士法人M&A総合法律事務所の関与

不動産を保有する会社の譲渡は、会社法、税法及び不動産に関する法令が交錯する領域です。当法人の代表は、不動産投資信託の上場の案件に関与し、不動産及びファイナンスの実務を専門としてまいりました。不動産の評価、含み益の取扱い及び分離の方法の設計につき、事業の評価と一体としてご支援いたしております。会社分割その他の組織再編の手続、権利関係の是正及び契約書の作成につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所が担当いたします。

含み益に対する税額相当額の控除 数値による例示

不動産を保有する会社の譲渡において最も金額の大きな争点ですので、実際に計算いたします。数値は説明のための仮定です。

項目 金額
土地の帳簿価額 1億円
土地の時価 3億円
含み益 2億円
その他の資産及び負債による純資産 1億5,000万円
主張 計算 時価純資産
売主の主張(控除を否定) 1億5,000万円+2億円 3億5,000万円
中間的な処理(含み益の3割を控除) 1億5,000万円+2億円-6,000万円 2億9,000万円
買主の主張(実効税率相当を控除) 1億5,000万円+2億円-約7,000万円 約2億8,000万円

控除の割合により、7,000万円の差が生じております。売主が主張し得るのは、次の各点です。

  • 当該不動産は事業の用に供しており、売却の予定がないこと
  • 売却の時期が確定していない以上、税額の現在価値は名目額より小さいこと
  • 財産評価基本通達に定める純資産価額方式における評価差額に対する法人税額等相当額の控除は、相続税及び贈与税の課税上の評価の方法であり、M&Aの取引価格の算定に当然に適用されるものではないこと
  • 買主が将来において当該不動産を事業に用い続ける限り、課税は生じないこと

公的な指標から時価を推定する手順

鑑定評価を取得する前に、公的な指標により概算を把握しておくと、交渉の準備になります。

  1. 固定資産税評価額から推定する 固定資産税評価額は地価公示価格の7割程度を目安として設定されているとされております。したがいまして、固定資産税評価額を0.7で除した額が一つの目安となります
  2. 相続税路線価から推定する 相続税路線価は地価公示価格の8割程度を目安として設定されているとされております。路線価に地積を乗じた額を0.8で除した額が一つの目安となります
  3. 地価公示及び都道府県地価調査を確認する 近隣の標準地の価格を確認いたします
  4. 取引事例を確認する 国土交通省の不動産に関する取引価格の情報により、近隣の実際の取引価格を確認できます
  5. 収益還元により検証する 賃貸している場合、年間の賃料収入から経費を控除した純収益を、還元利回りで除した額を算出いたします

これらの方法による結果に幅が生じるのは通常です。幅の中でどこに落とすかが交渉であり、鑑定評価はその根拠を補強するものです。

分離の方法ごとの比較 数値による例示

帳簿価額1億円、時価3億円の土地を分離する場合の負担を比較いたします。

方法 会社に生じること 取得する側に生じること 留意点
経営者個人へ時価で売却 譲渡益2億円に対する法人税等 3億円の資金及び不動産取得税、登録免許税 個人の資金の手当てが最大の障害です
資産管理会社へ時価で売却 同上 同上。借入れによる調達が一般的です 資産管理会社の設立及び借入れに時間を要します
会社分割により承継 税制適格の要件を満たせば譲渡益は生じません 新設会社が承継いたします 株主総会の特別決議、債権者保護の手続、労働者の保護の手続を要します。要件の判断に専門的な検討が不可欠です
現物配当 譲渡益2億円に対する法人税等 株主において配当所得として課税されます 分配可能額の範囲内である必要があります(会社法第461条)
分離せずに譲渡 生じません 買主が引き継ぎます 含み益に対する税額相当額の控除が交渉の対象となります

いずれの方法によりましても、譲渡の直前に実行いたしますと租税回避との指摘を受ける可能性があります。事業上の合理的な理由を説明できる状態を整え、実行の前に税理士及び弁護士の検討を経る必要があります。

不動産の権利関係の是正に要する期間

是正の対象 期間の目安 留意点
相続登記の未了 1か月から6か月 相続人が多数の場合、遺産分割の協議に長期を要します。不動産登記法第76条の2により3年以内の申請が義務付けられております
登記名義人の住所等の変更 2週間から1か月 不動産登記法第76条の5により2年以内の申請が義務付けられております
境界の確定測量 3か月から1年 隣地所有者の協力を要します。所有者が所在不明の場合はさらに長期化いたします
未登記建物の表題登記 1か月から3か月 建築確認済証等の資料が必要です
越境物の解消 3か月から1年 解消が困難な場合、覚書の締結により処理いたします
抵当権の抹消 2週間から1か月 被担保債権の完済が前提です

不動産を保有する会社の譲渡をめぐって実際に生じる誤解

  • 「固定資産税評価額が時価である」 固定資産税評価額は課税のための評価であり、取引価格とは異なります
  • 「不動産があるから高く売れる」 買主にとって事業に用いない不動産は資金の負担でしかなく、かえって取得を躊躇させる要因となります
  • 「譲渡の直前に社長個人へ移せばよい」 時価による売却であれば会社に譲渡益が生じ、時価と乖離する価額であれば否認の危険があります
  • 「会社分割なら税金がかからない」 税制適格の要件を満たす場合に限られます。要件を欠けば譲渡益に課税されます
  • 「境界が未確定でも売れる」 買主は将来の紛争の危険を織り込み、価格を引き下げ、又は確定を前提条件といたします

賃貸借に関する確認の一覧

不動産を保有する会社の譲渡においては、所有する不動産のみならず、賃貸人又は賃借人としての契約の内容が価格を左右いたします。次の項目を、物件ごとに一覧といたします。

  • 契約の種類 普通借家か定期借家か、土地については借地権の種類
  • 残存期間及び更新の条件 更新料の有無及び金額
  • 賃料 近隣の相場との差、改定の条項の有無
  • 敷金及び保証金 返還の条件、償却の定め
  • 支配権の変更に関する条項の有無 株式の譲渡が解除又は承諾の事由とされていないか
  • 原状回復の範囲 退去の際の負担の見込額
  • 転貸及び又貸しの有無並びに承諾の有無
  • 経営者個人又は同族関係者との間の契約か否か

最後の項目は特に重要です。経営者個人が所有する不動産を会社が賃借している場合、譲渡の後も同じ条件で使用できるかが買主の関心事となります。賃貸借を継続するのであれば、譲渡に先立ち、期間及び賃料を書面により定め直しておく必要があります。反対に、会社が経営者個人に対して不動産を貸している場合には、譲渡の前に契約を終了させることが通例です。

権利関係の是正に要する期間

登記された所有者と実際の権利者とが一致しない、私道の持分が不足している、越境の状態が解消されていないといった事情は、いずれも是正に時間を要します。相続による名義の変更が未了である場合には、遺産分割の協議から登記まで3か月から6か月、境界の確定を要する場合には、測量から隣地の所有者の立会い及び承諾まで3か月から6か月が目安です。これらは譲渡の日程に直接に影響いたしますので、着手の前に確認しておく必要があります。

分離の方法ごとの比較

事業に用いない不動産を会社から切り離す方法には、次の3つがあります。第1に、会社が経営者又は資産管理会社に対して売却する方法です。手続は簡明ですが、時価により売却する必要があり、含み益に対して法人税が課されます。第2に、会社分割により不動産を保有する会社を分ける方法です。一定の要件を満たせば課税の繰延べが認められますが、手続に3か月から4か月を要し、債権者に対する手続も必要です。第3に、現物による配当又は現物による出資の方法です。いずれの方法によるかは、含み益の大きさ、繰越欠損金の有無、譲渡までに残された期間により決まります。税額の見込みにつきましては、必ず税理士のご確認をいただく必要があります。

賃貸借の一覧は、契約書の写しと対にして保管し、買主からの照会に直ちに応じられるようにいたします。

是正に要する期間は、譲渡の日程を組む際に、あらかじめ余裕をもって見込んでおきます。

当法人はM&Aの仲介及び助言を行う一般社団法人です。訴訟、交渉の代理、法律事務の取扱いなど、弁護士でなければ行うことができない業務は取り扱いません。これらに当たる部分は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

会社の譲渡をご検討の経営者様に向けて、当法人の取扱内容、進め方及び費用の考え方を次のご案内に整理しております。

なお、株式譲渡契約書の作成及び審査、表明保証、少数株主対策、許認可の承継その他の法律事務につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所において承っております。