少数株主がいる会社の売却 株式の集約の方法と、集約ができない場合の進め方

買主が求めるのは、原則として発行済株式の全部です。一部の株式が第三者に残る状態では、譲渡の後も株主総会の運営に他人が関与し、帳簿の閲覧を請求され、あるいは株主としての権利を行使される可能性が残るためです。したがいまして、少数株主が存在する会社の譲渡は、その株式をどのように集約するかという問題から始まります。

創業から年数を経た会社におきましては、設立時の発起人、退職した役員、創業者の親族、既に死亡した株主の相続人といった方々が、少数の株式を保有していることが少なくありません。中には、所在が判明しない株主、連絡はつくが応じない株主も存在いたします。本頁では、集約の方法を、当事者の協力が得られる場合と得られない場合とに分けて申し上げます。

最初に確定すべき事項

  1. 誰が株主であるか 株主名簿を基礎としつつ、相続の発生の有無、名義株の存否を確認いたします。名簿上の株主が死亡している場合、相続人の全員を戸籍により確定する必要があります
  2. 各株主の議決権の割合 後述する各手続には、それぞれ必要な議決権の割合が定められております
  3. 株券発行会社であるか否か 株券発行会社においては、株式の譲渡に株券の交付を要します(会社法第128条第1項)
  4. 種類株式の有無 議決権制限株式、拒否権付株式等が発行されている場合、手続が異なります

第1 協力が得られる場合の集約

任意の買取り

最も簡明な方法です。会社が自己株式として取得する方法と、経営者又は買主が取得する方法とがあります。

会社が自己株式を取得する場合、株主総会の決議を要し(会社法第156条第1項)、特定の株主から取得するときは、他の株主に自己をも売主に加えるよう請求する権利が生じます(会社法第160条第2項、第3項)。この請求を回避するためには、定款にその旨の定めを置く必要があります(会社法第164条)。また、分配可能額による制限を受けます(会社法第461条第1項第2号)。

経営者個人が取得する場合、この制限はありませんが、資金の手当てと、取得価額の相当性が問題となります。著しく低い価額により取得した場合、みなし贈与として課税される可能性があります。

相続人等に対する売渡しの請求

定款に定めを置くことにより、相続その他の一般承継により株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。請求は、相続があったことを知った日から1年以内に行わなければなりません(会社法第176条第1項但書)。売買価格は当事者間の協議により定め、協議が調わない場合には、請求の日から20日以内に裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条)。

この制度には注意を要する点があります。売渡しの請求を決議する株主総会において、売渡しの請求を受ける株主は議決権を行使することができないとされております(会社法第175条第2項)。経営者が死亡した場合に、この規定により経営者の相続人が排除され、少数株主が支配権を得るという逆転が生じ得ます。定款に定めを置く際には、この危険を踏まえた検討が必要です。

第2 協力が得られない場合の集約

株式併合による方法

株式の併合は、株主総会の特別決議により行うことができます(会社法第180条第2項、第309条第2項第4号)。併合の比率を調整することにより、少数株主の保有する株式を1株未満の端数といたします。端数は、競売又は裁判所の許可を得た任意売却により換価され、代金が交付されます(会社法第235条)。

反対する株主は、端数となる株式について公正な価格による買取りを請求することができます(会社法第182条の4)。協議が調わない場合には、価格の決定を裁判所に申し立てることができます(会社法第182条の5)。同条第4項は、平成29年法律第45号による改正により、従前の「年6分の利率」から「法定利率」に改められております。法定利率は、民法第404条により年3パーセントを出発点とする変動制です。

特別支配株主の株式等売渡請求

総株主の議決権の10分の9以上を有する株主は、他の株主の全員に対し、その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができます(会社法第179条第1項)。対象会社の取締役会の承認を要しますが(会社法第179条の3)、株主総会の決議を要しない点に特徴があります。

売渡しを受ける株主は、売買価格の決定を裁判所に申し立てることができます(会社法第179条の8)。

全部取得条項付種類株式による方法

定款を変更して発行する全部の株式に全部取得条項を付し、株主総会の特別決議により全部を取得したうえで、対価として交付する株式の数を調整する方法です(会社法第171条、第309条第2項第3号)。定款の変更を要するため手続が重くなりますが、株式併合が用いられる以前は広く用いられておりました。

方法 必要な議決権 手続の重さ
任意の買取り 相手方の同意 軽い
株式併合 3分の2以上(特別決議)
全部取得条項付種類株式 3分の2以上(特別決議) 重い
特別支配株主の株式等売渡請求 10分の9以上 軽い

第3 所在が判明しない株主への対応

会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合、会社は当該株主に対する通知又は催告をすることを要しないとされております(会社法第196条第1項)。さらに、その状態にあり、かつ、当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったときは、会社は当該株式を競売し、又は裁判所の許可を得て任意に売却することができます(会社法第197条第1項、第2項)。会社が買い取ることも可能です(同条第3項)。

この手続には、通知が到達しない状態が5年以上継続していることの立証が必要です。返戻された郵便物の保管、株主名簿の記載の履歴等を、平素から整えておくことが求められます。所在不明の株主が存在する場合、集約に相当の期間を要しますので、譲渡の予定から逆算して早期に着手する必要があります。

第4 集約ができない場合の進め方

期間又は費用の制約により集約が完了しない場合でありましても、譲渡の道が閉ざされるわけではありません。次の方法が検討され得ます。

  • 集約をクロージングの前提条件とする 最終契約の締結までに一定割合の集約を完了することを条件といたします。売主にとっては未達の危険を負いますが、取引の枠組みは維持されます
  • 買主が集約の手続を引き継ぐ 譲渡の後に、買主が特別支配株主の株式等売渡請求等により集約を行う方法です。この場合、価格の交渉において、集約に要する費用及び危険が考慮されます
  • 事業譲渡又は会社分割による方法 株式を集約せず、事業そのものを移転する方法です。ただし、株主総会の特別決議を要し(会社法第467条第1項、第309条第2項第11号)、反対株主の買取請求(会社法第469条)が生じます。また、許認可の承継、契約の相手方の同意、従業員の転籍の同意等の手当てを要します

株式の価格をめぐる争いの見通し

集約の過程において最も争われるのが、価格です。少数株主が保有する株式については、支配権を伴わないことによる減価を考慮すべきか否か、配当還元方式によるべきか収益方式によるべきかが争点となります。裁判所における価格の決定の実務は、事案の性質により大きく異なりますので、見通しの検討には具体的な資料に基づく分析を要します。

弁護士法人M&A総合法律事務所は、株式の買取請求権に関する最高裁判所の判断を得た経験を有し、株式の価格の決定を求める非訟事件を多数取り扱ってまいりました。当法人はM&Aの仲介及び助言を行う一般社団法人です。訴訟、交渉の代理、法律事務の取扱いなど、弁護士でなければ行うことができない業務は取り扱いません。これらに当たる部分は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。詳細は少数株主の株式に関する解説及びスクイーズアウトの解説をご覧ください。

相談すべき時期

少数株主に関するご相談は、買主候補への打診を始める前にいただく必要があります。理由は次のとおりです。

  • 集約には、方法によって3か月から1年以上を要します
  • 所在不明の株主に関する手続は、5年の期間の経過を要件といたしますので、直ちに実施することができません
  • 譲渡の交渉が進んだ後に少数株主へ買取りを申し入れますと、譲渡の事実が推知され、価格の要求が高くなります

相談の前に用意する資料

  • 株主名簿及び定款(現行のもの)
  • 履歴事項全部証明書
  • 株式の異動の経緯を示す書面(譲渡承認の議事録、譲渡契約書等)
  • 死亡した株主がある場合、相続関係を示す戸籍
  • 過去の株主総会の招集通知の発送の記録及び返戻の記録
  • 直近3期分の決算書一式

少数株主へ接触する前に確認する事項

  • 株主名簿の記載が現状と一致しているか。名義株が含まれていないか
  • 各手続に必要な議決権の割合を満たしているか
  • 定款に、相続人等に対する売渡しの請求の定め、自己株式の取得に係る売主追加請求権の排除の定めがあるか
  • 提示する価格の根拠を説明できるか
  • 接触の事実により譲渡の検討が推知される危険をどのように管理するか
  • 会社が自己株式として取得する場合、分配可能額の範囲内であるか

当法人及び弁護士法人M&A総合法律事務所の関与

少数株主の問題は、会社法の手続の選択、株式の価値の評価、及び相手方との交渉が同時に必要となる領域です。当法人は、株主構成の調査、集約の方法の設計及び日程の組立てをご支援いたしております。手続の実施、価格の決定を求める非訟事件の対応その他の法律事務につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所が担当いたします。

株式併合による集約の手続を、日程とともに示す

株式併合による集約は、条文を並べただけでは実務の感覚がつかめません。所要の期間を含めて示します。

順序 行うこと 期間の目安
1 株主の確定。相続の有無の調査。併合の比率の設計 1か月から3か月
2 取締役会において株主総会の招集を決定 1日
3 事前開示書類の備置き(会社法第182条の2) 総会の2週間前から
4 株主総会の招集の通知。非公開会社は原則として会日の1週間前まで(会社法第299条第1項) 1週間から2週間
5 反対株主に対する通知又は公告(会社法第182条の4第3項、第4項) 効力発生日の20日前まで
6 株主総会における特別決議(会社法第180条第2項、第309条第2項第4号) 1日
7 反対株主による買取請求の期間(効力発生日の20日前から前日まで) 20日間
8 効力の発生。端数の処理 1日
9 端数の競売又は裁判所の許可を得た任意売却(会社法第235条、第234条第2項) 1か月から3か月
10 価格につき協議が調わない場合の裁判所への申立て(会社法第182条の5) 6か月から2年

買取請求がなされず、価格の争いが生じない場合、着手から効力の発生まで3か月から4か月が目安です。他方、価格の決定を求める非訟事件に至りますと、解決までに1年以上を要することがあります。

併合の比率の設計と、端数の生じ方

併合の比率は、少数株主の保有株式が1株未満となるように設計いたします。次の株主構成を例といたします。

株主 保有株式数 割合 1,000株を1株とした場合
代表者 7,000株 70パーセント 7株
代表者の親族 2,000株 20パーセント 2株
退職した元役員(甲) 600株 6パーセント 0.6株(端数)
所在不明の株主(乙) 400株 4パーセント 0.4株(端数)

1,000株を1株に併合いたしますと、甲及び乙の保有株式はいずれも1株未満の端数となり、換価のうえ代金が交付されます。他方、比率を100株を1株といたしますと、甲は6株、乙は4株を保有したままとなり、集約の目的を達成できません。比率の設計を誤ると、手続をやり直すこととなります。

なお、株式の併合により1株に満たない端数が生じる場合、事前及び事後の開示書類の備置きが必要です(会社法第182条の2、第182条の6)。また、株主は、法令又は定款に違反し、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株式の併合の差止めを請求することができます(会社法第182条の3)。

集約に要する費用の目安

項目 費用の目安
株主の調査(戸籍の取得、相続人の確定) 数万円から数十万円
株式の価値の評価 数十万円から数百万円
株式併合の手続(書類の作成、登記) 数十万円から
端数の任意売却の許可の申立て 数万円の実費及び弁護士法人M&A総合法律事務所へお支払いいただく報酬
価格の決定の非訟事件 事案により大きく異なります
少数株主への支払(買取りの代金) 最も大きな費目です

費用の中心は、手続の費用ではなく、少数株主に支払う買取りの代金です。したがいまして、価格の見通しを早期に把握することが、集約の可否の判断に直結いたします。

少数株主への接触の実務

  • 接触の順序 協力を得やすい株主から順に打診いたします。最初に難色を示す株主に接触いたしますと、その情報が他の株主に伝わり、全体の交渉が難航いたします
  • 接触の主体 代表者自身が行うか、代理人によるかを事案により選択いたします。過去に感情的な対立がある場合には、代理人によることが有効です
  • 提示する価格の根拠 「額面で」「出資した額で」という説明は、現在では通用いたしません。評価の方法を示したうえで金額を提示いたします
  • 譲渡の検討を伝えるか 伝えれば価格の要求が高くなり、伝えなければ後に情報開示の不足を指摘される可能性があります。事案に応じた判断を要します
  • 書面による記録 交渉の経過は書面により記録いたします。後に価格の決定の手続に至った場合、協議の経過が判断の資料となり得ます
  • 期限の設定 いつまでも交渉を続けることはできません。応じない場合に採る手続をあらかじめ設計しておく必要があります

集約をめぐって実際に生じる誤解

  • 「額面の金額で買い取れる」 株式の額面という制度は、平成17年制定の会社法において廃止されております。額面を根拠とする買取りの主張は成り立ちません
  • 「出資した金額で返せばよい」 出資の時点からの企業価値の増加は株主に帰属いたします
  • 「連絡が取れないなら無視してよい」 所在不明の株主の株式を処分するには、会社法第197条の要件を満たす必要があります。無視して手続を進めた場合、後に無効を主張される危険があります
  • 「株主総会に来ない株主は同意したものとみなせる」 欠席は同意ではありません。議決権の割合は出席の有無にかかわらず計算されます
  • 「相続人が複数いる場合、代表者と交渉すればよい」 共同相続された株式は準共有となり、権利を行使する者1人を定めて会社に通知する必要があります(会社法第106条)

株主の一覧を作成する手順

集約の検討は、株主が誰であるかを確定することから始まります。手順は次のとおりです。第1に、株主名簿を確認いたします。第2に、法人税の申告書に添付する別表二(同族会社等の判定に関する明細書)を、過去10期分について確認いたします。株主名簿が整備されていない会社でも、別表二には毎期の上位の株主が記載されておりますので、持株数の推移をたどることができます。第3に、設立時からの株式の異動の記録、すなわち譲渡の承認に関する取締役会又は株主総会の議事録、増資の際の払込みの記録を確認いたします。第4に、相続の発生した株主については、被相続人の除籍謄本及び相続人の戸籍により、現在の権利者を特定いたします。相続人が複数いる場合、遺産分割が未了であれば株式は準共有の状態にありますので、権利を行使する者の指定が必要です。

この作業には、株主の数が20名程度であっても2か月から3か月を要します。所在の判明しない株主がいる場合には、住民票の除票及び戸籍の附票の取得を重ねますので、さらに1か月から2か月を見込みます。

集約に要する期間の目安

協力が得られる場合、すなわち相対の交渉により買い取る場合には、株主の一覧の作成に2か月、条件の提示と交渉に1か月から3か月、譲渡の承認及び名義の書換えに1か月、合計で4か月から6か月が目安です。協力が得られない場合、株式の併合による方法によりますと、株主総会の招集の準備に1か月、招集の通知から総会まで2週間、効力発生日までの通知の期間に20日、端数の処理の手続に2か月から4か月を要しますので、合計で6か月から9か月が目安です。

会社の売却の日程を先に固めてから集約に着手いたしますと、この期間を吸収できません。集約に着手してから買主の探索を始めるか、集約の完了を前提としない条件で買主と協議するかを、初期の段階で決めておく必要があります。

価格をめぐる手続に関する担当の切り分け

株式の価格の決定を求める手続、株式の買取請求に関する交渉及び訴訟は、弁護士でなければ行うことができない業務です。当法人はM&Aの仲介及び助言を行う一般社団法人ですので、これらは取り扱いません。当法人が行いますのは、株主構成の調査、集約の方法の比較、日程の設計及び買主との調整です。価格をめぐる手続につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所へお取次ぎいたします。

集約に要する費用の目安と負担の主体

集約の費用は、方法により大きく異なります。相対の交渉により買い取る場合には、株式の対価のほか、株主の調査に要する実費(戸籍及び住民票の取得、郵送)が数万円から数十万円、名義の書換えに関する事務の費用が生じます。株式の併合による場合には、株主総会の招集及び通知の費用、端数の処理に関する裁判所への申立てに要する実費として数万円、及びこれに関する弁護士法人M&A総合法律事務所へお支払いいただく報酬が生じます。株式の価格の決定を求める手続に至った場合には、株式の価値の評価に関する費用が別途に生じます。

費用の負担の主体は、方法により異なります。相対の買取りにおいて対価を支払うのは、会社が自己株式として取得する場合には会社、経営者が個人として取得する場合には経営者です。会社が取得する場合には財源の規制(分配可能額)の範囲内であることを要しますので、直近の決算の数値を確認しておく必要があります。

少数株主へ接触する順序

接触の順序を誤りますと、集約は難航いたします。第1に、持株数の多い株主ではなく、経営者との関係が良好な株主から接触いたします。第2に、書面のみによる打診は避け、面談又は電話により趣旨を説明したうえで書面を送付いたします。第3に、条件は全ての株主に対して同一といたします。先に応じた株主が後から不利な条件であったと知れば、以後の集約に支障が生じます。第4に、会社の売却を検討している旨をどの段階で伝えるかを、あらかじめ決めておきます。

接触の記録は、日付、相手方、方法、伝えた内容及び相手方の反応を、その都度書面に残してまいります。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

会社の譲渡をご検討の経営者様に向けて、当法人の取扱内容、進め方及び費用の考え方を次のご案内に整理しております。

なお、株式譲渡契約書の作成及び審査、表明保証、少数株主対策、許認可の承継その他の法律事務につきましては、弁護士法人M&A総合法律事務所において承っております。